全方位移動(しゃちょ〜)

自動車のような車輪を持つ移動体の場合、当然ですが真横には動けません。ステアリングを切って円弧を描いて曲がります。独立二輪方式(左右に2個の駆動輪を持つ)タイプでは、左右の回転速度比で、旋回、信地旋回、超信地旋回しますが、やはりいきなり真横には動けません。
このようなシステムを「ノンホロノミック拘束」と言います。2個の入力(前後進とステアリング、左右のモータ回転)に対し、移動可能空間は3次元(x,y,θ)です。オムニホイルを利用した全方位移動台車は、モータが最低3個いるので、ノンホロノミック拘束ではないです。3つの入力に対し、3つの出力。
ノンホロノミック拘束なシステムは、それが故に運動が制限される場合があり、例えば上位アプリケーション層で、ロボットの目的地を設定しても、実際のロボットがそこに行けないケースが出てしまいます。その回避策としてよく使われるのが、仮想ロボット位置を設置することです。例えば、ロボット前方50cmぐらいの所に仮想的なロボットを配置し、上位アプリケーションでは、仮想ロボット位置を使って計算します。すると、仮に目標値が真横に来た場合も、実際のロボットの位置から見ると、斜め前に見えるので動くことができます。
しかし、当然ながら上位層は仮想ロボット位置しかしらないので、下位層では、ローカルな衝突回避などの制御系を組まないと、どこかにぶつかったりしてしまいます。
そんな面倒なこと(でもない?)をしたくない場合は、全方位移動が可能な台車を遣うことになります。特に、車輪型ロボットでの充電ブースへのアクセス等の位置合わせでは、「あと少しだけ右に平行移動してくれればなぁ。」と思う瞬間があります。そんな時、全方位移動台車のメリットが出てきます。
しかし、いわゆるオムニホイルは、市販品では車輪径が小さいという点と、横移動中は、車輪内の小さい車輪が回転することになり、この径はもっと小さいです。この径が、段差乗り越え能力に直結するので、事実上、市販のオムニホイルを配置しただけでは、平地のみでの運用となってしまいます。
大きな車輪のままで、同じ能力を持たせるには、大きな車輪を回転させるという方法があります。駆動輪軸の床面からの法線方向にステアリング用モータを取り付ける方法もありますが、この場合、ステアリングを切ると、タイヤがその場で滑るので(すえ切り状態)摩擦が大きいです。
そこで、ステアリング軸を、駆動輪軸上からズラすことで、それを回避することができます。その際、ズラす量をうまく調整すると、タイヤはその場できれいな円を描きながら回転します。駆動輪を止めていても、ステアリングによる回転が、タイヤを回すので、滑らかに動きますし、ロボット本体も全く動きません。
精密な位置合わせが必要な移動台車では有利な方式です。下記は、玉川大学様の「RoboCup@home」向けに開発したロボットの台車部分です。なかなか、気持ちよく動きます。先日行われたJapanOpenで優勝しました。おめでとうございます。現在開催中のRoboCup世界大会でも頑張って欲しいです。